菅首相の「最終的には生活保護がある」という発言が、物議を醸している。参議院の予算委員会でコロナ禍による生活困窮者への対応を求められた際の答弁だ。
生活困窮者のセーフティネットとしては、ほかに「緊急小口資金」「総合支援資金貸付」という貸付の制度がある。2019年度の貸付件数は約1万件であったが2020年3月から2021年1月までで14万件をこえる支給決定が行われたという。
一方、生活保護についてみてみると申請数は増えているものの、2020年7月時点では被保護世帯数、被保護人員数ともに前年を下回っている。コロナの影響が続く中、今後は増加に転じると見込まれるものの、貸付制度との利用者数の差は歴然としている。
生活保護の利用が進まない理由のひとつが、「補足性の原理」とよばれるものだ。
これは、資産や労働する能力、3親等内の親族による援助の可能性などを検討したうえで、公的援助が必要と認められた場合に生活保護が利用できるという原則を指している。特に親族に対する扶養照会が、この制度を利用する際のネックになっているという。
この「補足性の原理」については誤解されている点も多々あり、実際の運用にあたっては柔軟な取り扱いがされているケースも多いようだ。
また、生活困窮者が増加する中で、制度に対する誤解や曲解に基づく、生活保護の受給者に対する謂れなき誹謗中傷も散見される。
「最終的には生活保護がある」と言い放つだけではなく、制度に対する理解を促し、少なくとも利用することの心理的なハードルを下げる施策とセットにしなければ、せっかくの制度も機能しない。
そういったことを思いやる想像力が、この発言には欠けている。